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雨の日だけに会えた君の話。



*1日目*
俺の席。窓際一番後ろ。日当たりはそこそこ。
そこそこと言ってもそんなにいいわけでもなく、雨が降るとむしろうす暗い感じの教室。
ただ、今は8月で、暑い、あとでアイスでも買い食いしようなんて思いながら学校にきた。夏期講習である。
そんな席に座って早数日。といってもよくは覚えていない。学生にとっての時間なんて割と大雑把なもんだと思うから別にいいんじゃねーの?
んで、今日は残念ながら雨が降っている。
別に雨は嫌いじゃない。むしろ音は好きな方なんだけど。
今の時間は気怠い化学の時間で、対して化学に興味がないうえに教師も眠そうとあれば、俺だって眠くなる。(いつも眠いけど)

(雨、やまねぇなぁ…)

ふと窓に目を向ければ、雨の降る外が見えるはずだった。
そう、はずだったんだが。

「な…っ、ぎゃあ▲くぁwせdr□rftgyふj◎うじこlp;?!?!」

人生でこれが最初で最後なんじゃないかって悲鳴をあげて俺は椅子から転げ落ちた。
さすがの教師も「どうした?!」とか言ってきたがすまん先生、それどころじゃないです。

「ひ、ひと…っ!!!」

窓の外、というか、なんというか。
本来外があるはずのそこには教室があって、俺の真ん前には長めの黒髪を三つ編みにした同い年くらいの女子が座っているのだ。
同じ間取りの教室はどこか古臭く、彼女の制服は見慣れないセーラー服だった。うちの学校はブレザーである。
そんなことを一瞬でぐるぐる考えているうちに、教師が俺のところまできてしまった。

「おい、なにしてるんだ…人ってなんだ?」
「ま、窓…」
「窓?…………なんだ、なにもないじゃないか、居眠りすんなよ」

そう軽く告げて教師は授業を再開する。
俺も席に着いたが、いつの間にやら彼女は見えなくなっていた。

「おい、お前なにしてんだよー?」
「うっせ、ほんとに見えたんだよ、窓に人!!」
「どーせまぁた眠気と戦ってたせいだと思うぜ?」


*2日目*
そんなやりとりをクラスメイトとして、やっぱりあれは気のせいだったのかとなんとか自分を納得させた、次の日。
また雨の日。天気予報でここ一週間は雨だとか言ってた。

(まぁた雨かよ)

ふと窓を見れば、ああ、また見えるんですけど??なにこれ???
ほんとにこれは幻覚なんだろうか。妙に生々しいのに。
今度は驚かないように、と口元にてをやりながらじっ、と見つめる。
よく見れば先日の女子はとても綺麗な顔立ちをしていて、でもどこか、なんだろうか、何かに違和感を覚えた。
試しに教師から見えない位置の窓を軽くコンコン、と叩く。
するとなんと、少女はこちらを向いたのだ。

「…!!!…………?!?!?!?!?」

あ、なにか叫んで倒れた。この前の俺みたいだな。
とか思ったが、全く声は聞こえない。そういうもんみたいだ。
少しして、彼女は映らなくなった。

*3日目*
さらに次の日。
取り敢えず昨日一昨日、どちらも4限の後半、正午くらいから10分間だったので、今日もそれくらいに窓を向く。あ、目があった。
とりあえず用意してあったメモをそっと窓に向ける。

『あなたは誰ですか』

それに彼女は随分驚いたようで、それでも適当に紙を見繕って返事を書いてきた。

『あなたこそ誰ですか、不審者ですか?』

お前それよく平静な顔で出せるなおい。
ここから、俺と彼女の変な10分間が始まった。

*4日目*
昨日の会話で名前はわかった。
というわけで、今日はちゃんと話をしてみようかと思うんだが。
なぜか彼女は現れなかった。今日の天気は晴れだ。

*5日目*
もう現れないのかと思いきや、今日は普通に彼女が現れた。
これは多分雨の日じゃないと会えないとかそんなことなんだろうか?面倒だ。
一昨日のようにメモを突きつけた。

『そっちは雨?』
『そうよ、昨日は晴れ。あなた昨日出てこなかったわね、やっぱりお化け?』
『違う。雨の日だけなんじゃないの』
『ああ、そう。ところでそっち、どこの学校?』
『青城学院、そっちは』
『同じ。何年何組よ』
『2年1組。』
『同じ組ね』

ちょっと意味がわからない、そんなことを思っていれば時間が来たんだろう、彼女はいなくなった。

*6日目*
今日は晴れ。
ちょっと気になって、彼女のことを調べることにした。
学校で古株の教師に彼女の名を告げてみるものの、覚えている教師はいない。仕事してください先生。

*7日目*
残念今日は雨だけど学校が休み。
とか思ったけど提出課題を学校に忘れたのを思い出して、学校に行くことにした。
時間はちょうどいつものあの時間で、なんとなしに窓を見れば彼女がいる。
ちょっとびっくりしつつも、俺は彼女に聞くことにした。

『今さ、何年?』
『あなた馬鹿?1945年でしょう』

俺はびっくりするしかない。
だって、それは俺のいる今から67年も昔だったから。意味がわからん。
いや、67年前にだってうちの学校はあった、確かにあったはずだ。(だってこの前100周年記念で休日だったのだから)だからといって、これはなんの冗談なのか。
というか、今日は、8月何日だ。
そうだ、15日、終戦記念日。
時計を見れば時間は正午。記憶では玉音放送の時間だ。
窓を見れば彼女が驚いたような顔で放送機があるのだろうか?どこかを向いて目を見開いていた。
ああ、おそらく終わったのだろう
その日、俺と彼女は一言も話さずに10分間を終えた。



あれからいくらか過ぎたが、彼女は現れなかった。
あとで調べてみれば、うちの学校はもともとセーラーに学ランだったんだとか。そんなの知るか。
その後席替えをして、学年が上がり、卒業するときには、彼女のことは対して覚えていなかった。
ただ、今でも8月15日には思い出す。
へんてこな10分間、おかしな関係、あの時間の意味。
別の時代を知ることなど、俺には無理だ。生きていなかったんだから。
それでも、彼女の時代はきっとあれから幸せだろうと、勝手に想像するのだ。
雨の日にしか会えなかった彼女に、想いを込めて。

今日もどこかで、雨の日に。
誰かと誰かの時間と時代がつながっているのかもしれない。

部活用に書いたものを。文化祭で今度使います。
初オリジナル作品うpですが、どうだったでしょうか?
かなり前にネタを思いついてから、ずっと書こうかな、どうしようかな、と放っておいたものを今回部活でやっとこさ書く事が出来ました。
時間が恐ろしい程になかったので、完成度としては低めかもしれません。